契約書や証明書の提出を求められたとき、「原本が必要です」と言われて戸惑った経験はないでしょうか。
そもそも原本でないと、なぜ認められないのか、原本の効力とはーーーそのようなことを正しく理解している人は、多くありません。
原本は、文書の内容や当事者の意思を法的に証明する重要な役割を持つ書類です。ビジネスでも必要になる場面が多いため、原本の基本について、この機会に正しく理解しておきましょう。
この記事では、原本の意味から、写し・謄本・抄本との違い、原本提出が求められる具体的な場面、原本証明や電子契約での扱いまで、実務に役立つ形でわかりやすく解説します。
原本とは何か

原本とは、次のような性質を持つ書類を指します。
- 文書の内容を確定させるために最初に作成されたオリジナルの書類
- 作成者の意思が正式に反映され、署名や押印などにより真正性が担保されているもの
ここでは、原本とは何かをもう少し詳しく見ていきましょう。
原本の定義と読み方
原本とは、内閣法制局では「作成者が一定の内容を表示するため、確定的なものとして作成した最初の文書」と定義しています。
簡単に言えば内容が確定し、それ以上書き換えられることを前提としない「おおもと」となる文書です。
原本には署名や押印がされていることが多く、契約書や申請書などでは、作成者や関係者の意思を明確に示す役割を持ちます。また、こうした原本は法務局や金融機関、企業の管理部門などで厳重に保管され、改ざんや紛失が起こらないよう管理されています。
なお、原本の読み方は「げんぽん」となります。音の響きや文字の意味が似ていることから、よく「元本(がんぽん)」と混同されがちですが、こちらは金銭貸借における元金などを指す言葉です。
電子データの原本もある
近年では、紙だけでなく電子データが原本として扱われるケースも増えています。
電子署名やタイムスタンプが付与されたPDFファイルなどを用いて、電子契約書を交わした経験のある方も多いのではないでしょうか。また、何かを購入した際、証明書としてタブレットにサインをした経験を持つ方も、いることでしょう。
これらの電子データも、紙の原本と同等の効力を持つ文書として認められます。
ただし電子データは簡単に複製できるという性質があります。アクセス権限の管理や保存環境の整備を怠ると、原本性が疑われるリスクもゼロではありません。
そのため電子データを原本として扱う場合には、技術的な改ざん防止策と閲覧範囲の設定などの適切な運用ルールが求められます。
原本と写し・謄本・抄本・正本・副本の違いと関係性

原本からは、目的に応じてさまざまな書類が派生します。
- 原本:文書の内容を確定させるために最初に作成された「おおもと」の書類。
- 写し:原本をコピーした書類。内容は同一だが、原本そのものではない。
- 謄本:原本に記載されている内容をすべて写した公的な証明書。原本の代替として提出できる場面が多い。
- 抄本:原本のうち、必要な部分だけを抜粋した公的な証明書。
- 正本:原本と同一の法的効力を持つ書類。判決書や公正証書など、実際の法的手続きで使用される。
- 副本:正本の写しにあたる書類。控えや記録保存用として保管される。
原本について正しく理解するためにも、ここではそれぞれの内容を見ていきましょう。
写しとの違い
写しとは原本に基づいて作成された文書で、内容は原本と同一ですが、原本そのものではありません。原本をコピー機で複写した書類や、スキャンデータを印刷したものが典型例です。
たとえば、運転免許証を提示する場面では、原本の代わりにコピーを提出することがありますが、これは「写し」にあたります。住民票や契約書についても、提出先によっては写しで足りるケースがあります。
ただし、写しは原本の真正性を直接証明する力は弱く、重要な契約や公的手続きでは「原本」の提出を求められることが多い点に注意が必要です。
謄本・抄本との違い
謄本と抄本は、いずれも原本と同じ内容を記載した証明書です。「写し」との違いは、公的証明書として活用できるかどうかにあります。
謄本・抄本は専門の公的機関・窓口で保管されており、個人が勝手に持ち出すことはできません。入手するためには手続きや費用が必要になります。
このように謄本・抄本は原本の内容が正しいものを公的に認める書面のため、個人が自由に作成する写しとは、効力が異に差があります。
なお、謄本と抄本の違いは、記載範囲にあります。謄本は原本に記載された内容をすべて写した書類であり、抄本はその一部のみを抜粋した書類です。
家族関係全体を確認する必要がある相続手続きなどでは謄本が求められ、個人情報の確認だけで足りる場合には抄本で対応できるケースがあります。法人登記でも同様で、会社全体の情報確認が必要な場合は謄本、限定的な確認で足りる場合は抄本が使われます。
正本・副本との違い
正本とは、原本と同一の法的効力を持つ書類です。原本が一つしか存在しない場合に備え、同じ効力を持たせるために作成されます。
代表的な例が、判決書や公正証書です。これらでは、裁判所や公証役場が発行する正本が、実際の手続きで使用されます。正本は、強制執行などの法的手続きにそのまま利用できる点が特徴です。
一方、副本は正本の写しにあたり、控えとして保管される書類です。
副本自体に独立した法的効力はありませんが、内容確認や記録保存の目的で重要な役割を果たします。
原本書類の提出が必要な場合

原本の提出は、文書の真正性が厳密に求められる重要な場面で必要になります。主なケースとしては次のとおりです。
- 金融機関での融資審査や契約手続き
- 不動産売却・登記関連の法的手続き
- 相続手続き全般
金融機関での融資審査
金融機関で融資審査やローン契約を行う際には、原本の提出が求められることが多くあります。
とくに実印を押印して契約する際には印鑑登録証明書の原本を提示する必要があり、これは契約者本人が、確かにその意思で契約していることを担保するためです。
また、融資時には税務関係など公的に証明される書類の提示を求められることがありますが、これらは基本的に原本の提出が必要です。たとえば課税証明書は原本が求められるケースが大半です。
一方で、自己申告の種類、たとえば確定申告書の提出を求められる際は、写しでも許容されるケースが多く見られます。
不動産売却時
不動産売却の手続きでは、登記識別情報通知の原本交付が必須となることが一般的です。登記識別情報通知とは登記簿に記載された権利関係を示す最終的な証明書類のことで、不動産の所有権を適切に移転するために求められます。
また、売買契約書への実印押印時にも、契約者の確実な意思確認が重視されるため、印鑑登録証明書の原本提出が求められるのが通例です。
不動産取引は高額なため、書類の真正性と申請者の明確な意思表示が重要視されます。
相続手続き
相続手続きでは、遺産分割協議書や遺言書などの原本提出が必要な場面が多くあります。
これは、相続登記や各種名義変更の手続きでは、遺産を受け渡す側と受け取る側の明確な関係性を示すためです。関係のない第三者が適当な遺言書を偽装し「私が相続人です」と現れるのを防ぐことを、大きな目的としています。
また、遺言書については、種類によってはさらに書類が必要になることもあります。
たとえば自筆証書遺言(本人が全部手書きで書く遺言書)や秘密証書遺言(中身を誰にも見せずに作れる遺言書)の場合、家庭裁判所での検認手続きが必要となり、相続手続きの際には検認済証明書の添付が求められます。これは遺言書の内容を有効と認めるものではなく、存在や内容を確認した事実を証明するためのものです。
一方で、公正証書遺言(本人が公証役場で話した内容を、公証人という専門家が文章にまとめたもの)は公証役場で作成され、公証人が関与しているため、検認手続きは不要とされています。
原本証明とは何?

原本証明とは、原本そのものを提出できない書類をコピーで提出する際に、そのコピーが原本と同じであることを証明する手段です。
写しに「原本と相違ないこと」を申請者自身が記載・押印することで、原本としての効力を補完し、提出先に内容の正確性を保証する役割を果たします。
原本証明が必要なとき
原本証明が求められる具体的なケースとして、次のような場面があります。
定款提出時:会社設立や変更登記などで写しを原本として提出する際に原本証明が必要。
金融機関での手続き:法人口座開設や取引契約など、会社情報を正確に確認する場面で写しの原本性を示すために求められる。
行政機関への申請:許認可申請、助成金・補助金申請などで、事業内容や組織情報を示す書類が求められる際に原本証明付きの写しが必要になる場合がある。
提出先によって原本証明が必須か否かは異なるため、事前に確認しておくと安心です。
正しい書き方
原本証明の記載には、提出する写しが原本と相違ないことを明確に示す文言を入れます。
基本的には、以下の本文を添えれば問題ありません。
「この写しは原本と相違ないことを証明する。令和○年○月○日 住所・会社名・代表者名 印」
また、複数ページの書類を証明する場合には、袋とじや綴じ込みをして割印(契印)を施す方法が一般的です。各ページをホチキスで留め、綴じ目すべてに割印を押印し、最終ページの余白に原本証明の文言と押印を記載します。
契約書原本の取り扱い

契約書原本を適切に扱うためには、次の2点を押さえておくことが重要です。
- 安全に保管すること
- 法令に沿った形で管理すること
これらを守ることで、情報漏洩や改ざんといったセキュリティリスクを防げるだけでなく、契約の有効性を法的に担保できます。
安全な保管方法
紙の契約書原本は、鍵付きキャビネットや耐火金庫など、物理的にアクセスを制限できる場所で保管するのが基本です。誰でも触れられる状態を避け、管理責任者を明確にしておくことで、紛失や改ざんのリスクを下げられます。
一方、電子契約の場合は、クラウドサービス上でのアクセス権限設定が重要になります。閲覧・編集・管理の権限を役割ごとに分け、不要なアクセスを制限することで情報漏洩を防止できます。
また、保管ルールを形だけ整えても、現場で理解されていなければ意味がありません。定期的な社内研修やeラーニングを活用し、契約書の取り扱いルールや情報管理の重要性を共有することも、安全な保管体制を維持できます。
電子契約の原本管理
電子契約の原本を適切に管理するためには、電子帳簿保存法が定める要件を満たす必要があります。
特に重要なのが「真実性」と「可視性」です。
真実性とは、保存されたデータが作成後に改ざんされていないことを担保する仕組みを指し、電子署名やタイムスタンプの付与によって確保されます。
可視性は、必要なときに速やかに内容を確認できる状態で保存されていることを意味し、検索機能や閲覧環境の整備が求められます。
これらの要件を満たした電子契約書は、紙の契約書と同様に原本として扱われます。
まとめ
原本とは、内容が確定した「おおもと」の文書であり、法的判断や権利関係の基準となる重要な存在です。写しや謄本、抄本、正本・副本は、原本をもとに目的別に使い分けられる書類で、それぞれ効力や役割が異なります。
原本の正しい理解と管理は、トラブル防止と円滑な手続きのために欠かせません。
原本書類が必要になる場面で慌てないように、ぜひ、今回の記事を役立ててください。



